いちおう臨床心理士ですけどなにか?①

いちおう臨床心理士ですけどなにか?(昔々その昔のはなし) ①-電話編-

長期入院している患者さんから「家族に電話して面会にくるように言って欲しい……」という要望があった。

当時の精神病院は病棟に公衆電話もなく、まず主治医に許可をもらい、そのうえで詰所(ナースステーション)の電話から病院交換を通して外線電話をかけ、終ると交換から料金のお知らせがあり、伝票処理のうえで預り金から電話代を精算する……という超面倒な手続きが必要だった。

主治医はいちいちめんどくさいので、その許可権限を病棟婦長(看護師長)に投げ、婦長は主任に投げ……、あげくの果てに「にしのくんに聞いて!」と、便利使いの何でも屋の私に投げてくる。
とにかく面倒なことは何でもかんでも投げてこられた。

当時は単純に「何年も入院させっぱなしで面会にもこないなんてけしからん………」とおもったし、しかもなかには入院費も未払いなんてこともありました。

私はそうかそうかと引き受け家族に電話をするとけんもほろろで「2度と電話なんかかけてくるな!」と話も聞かずにガチャッと電話を切られる。

それを患者さんとスタッフに伝えると、患者さんはガッカリしたり怒ったりしたりするので、それをなだめるのも私の仕事になるわけです。

スタッフには「ほらね電話なんかしたって無駄なのよ、まぁ、にしのくん舐められてるのよ、患者に舐められないようにしないとね」とたしなめられるのです。

私こそガッカリしたりムカついたりモヤモヤしたりなわけで、ここまでがセットで電話1本の仕事なのです。

患者に舐められてはいけないということがどういうことだろうとモヤモヤしたりもしました。

身寄りがわからない患者さん達も多く、なんとか探してコンタクトを……なんてこともしていましたが、これも労多くしてなんとやらですね。

やっとみつけた身内に連絡をすると「今さら連絡をもらっても困る、20年も前から音信不通なんだから……」ってことになるわけです。

亡くなった際にも同様のことが起こり、苦労して探し出したお身内のほとんどが「知らん!」と亡骸の引取を拒否します。
身寄りのわからない(わかっても拒否される)患者さんは無縁仏として供養されることになります。

ところが、身内のいない長期入院をしている患者さん達の多くは生活保護で入院をしていたり、ご自身の年金で入院していたりで、なかには亡くなったときに数十万〜数百万のお金を持っていることがありまして、連絡をとったお身内は最初は困るとか知らんと言っていても、実は……と所持金の話をすると………

はい、遠方からでもすぐにとんでくるのです。

まぁ、そりゃそうですよね、人の命も金次第です。

面会にも来てくれない、電話や手紙も拒否し、一切の関わりを拒否する身内に対し、なんて冷たい家族なんだ!とおもったりしましたが………

そういう家族のほとんどが本人(入院患者)からトラウマになるようなかなりひどい目にあわされていて、お話をうかがうにつれ、まぁ、やむを得ないなぁ、そりゃあ二度と関わりたくないよなぁ……というのもわかっていくのです。

患者本人はひどい家族だ……と言いますが、家族にしてみればひどい目にあってるのはこっちだよ……ということになるのです。

ちょっと慣れてくると患者さんから電話してほしいと言われてもホイホイ引き受けないようになり、スタッフからのなんでもかんでも困ったときはにしのくん……みたいなのも引き受けないでいられるようになりましたが、7〜8年かかったような気がします。

電話騒動が一段落すると、にしのくんケンカぁ〜という声が聞こえ、そちらに走っていくのです。

いちおう臨床心理士ですけどなにか?

続く……かもしれない(^_^;)