20年前くらいから街にはメンタルクリニックや心療内科がやたらたくさん増えていますが、………にもかかわらずどこもいっぱいで予約3ヶ月待ちなんてことも珍しくありません。
いったいどうなっちゃっているんでしょうね???
それにともない精神科医療への敷居が下がり昔に比べ随分受診しやすくなりました。
とはいえまだまだ精神科医療のみならず行政などの相談機関もファーストコンタクトは本人ではなく家族が……ということが少なくありません。
ご本人が受診したがらなかったり、病識がなかったり、家族が困っているから……ということがあるわけです。
いま、ここで困っている人の多くが本人ではなく家族や周囲だということです。
ですから、上岡陽江さんも言っていたように家族支援というのは優先順位第1位と考えてよいかと思っています。
いま、ここで困っている人が支援のファーストエイド、優先順位第一位なのです。
当然、診察現場でもご家族のお話をうかがうところから……が多くなります。
しかし、気をつけないと家族の話をそのまま信じてしまうというか、本人の話を聴かずに診断治療がすすんでいく……なんてことになりかねません。
また、困っている家族は自分は正しいし、自分こそが本人のことを一番よくわかっているので、おかしくて間違っていて何もわかっていない本人が医療機関や相談機関に行くべきだと思っています。
「君と宇宙を歩くために」という泥ノ田犬彦さん著作のコミックに登場する宇野啓介くんのお姉ちゃんの共依存っぷりは、まさに家族の陥る状況をあらわしていて、不安や怖れから過剰に手出し口出し支配コントロールしようとし、思い通りにならないと本人を罵倒したり………と、家族が正気を失って、おかしくなっていくことも珍しくないわけです。
ですから、診察現場や相談現場では家族の話を丁寧にうかがいながら鵜呑みにしてしまってはいけなくて、本人がいかにおかしいかという話を聞きながら、その話をしている家族がどれほど正気を失っているかを見極める必要があり、まずは家族に正気を取り戻してもらい落ち着いていただくアプローチこそが大切なのです。
実は、多くの精神科医療では本人の言う事が蔑ろにされがちで、どうしても家族の言い分が優先されてしまいがちです。
これは本当に気をつけないといけないことなんだね。
多くの家族は、まぁ、多かれ少なかれ、実に巧妙に自分の正当性を主張し、そのために現実を歪曲してしまいます。
当然ですが、本人もどれほどおかしくても自分の正当性を主張し、治療なんかいらないと言います。
人の話なんて、立場変われば主張も変わるわけで、昔から、ほら、群盲像を評すとか、芥川龍之介の藪の中のようになるわけですよ。
この狭間でいかに冷静にアセスメントをするかが、私たちの仕事で重要なこととなります。
ちょっと話はズレますが、とある車椅子の方と銀行や郵便局や役所などに出かけた際に、どこへ行っても付き添いの私にいろいろ尋ねられることが圧倒的に多いのね。
いやいや、本人のことは本人に直接聞いてくれ……と何度も思ったわけですよ。
で、それなら私の付き添いとして車椅子の方についてきてもらうということをやりましょう………とちょっとワクワクすることを企んでいましたが、残念ながらいまだにやれていません。
ファーストコンタクトやファーストエイドというのは案外見た目や雰囲気などによって簡単に歪曲されてしまうということを知っておく必要があるのです。