強迫性障害

長いです………

俳優の佐藤二朗さんが、自らが強迫性障害を患っていることを告白しました。

強迫性障害ってなかなかわかってもらえない大変な病気です(強迫性障害だけが大変なわけではありませんが)

このわかってもらえなさも辛いところです。

強迫というのは、わかっちゃいるけどどうにもやめられないとまらない……ということです。

皆さん何となくはご存知だとは思いますが、強迫性障害の症状は強い不安や恐怖や焦燥感をともなう汚れているのではないかという汚染や、誰かや何かにひどいことを言ったりやってしまうのではないかという加害や、誰かにひどいことをされたり言われたりするのではないかとか事故や犯罪に遭ってしまうのではないかいう被害や、失敗してしまうのではないか………などの強迫観念(とらわれ、勘違い、思考の汚染、猜疑、念慮、妄想とスペクトラムとも言えます)と、それらを打ち消すべく何回も繰り返し手を洗ったり、何度も施錠や火の元や忘れものや間違い等を確認せずにいられないといった、ある意味儀式的な強迫行為に分けられていますが、ほとんどは重複して症状を抱えていて、背景には強い不安や怖れや焦燥感があります。

症状が拡散して増えていったり、移り変わっていったり、ひとつの症状への固着が強化されたりもします。

強く迫る……という文字に表されるように、抗うことができないほどに強く迫ってきて、居ても立っても居られなくなってしまいます。 

客観的に合理的に問題ないかどうかではなく、自分が納得できるかどうか、気が済むかどうかにとらわれてしまいます。

いまだに原因はよくわかっていませんが、多くは思春期前半くらいに発症し、遺伝負因(家族集積性)も高く、加齢とともに症状が軽減されていく人もいれば、逆に強化、増長、拡散されていく人もいます。

あきらかなきっかけがある方々もいますが、それは原因ではなくきっかけにすぎません。

ベースに発達障害を持ち、それゆえ育てにくさがあり、養育環境のなかで虐待被害に会ったり、マルトリートメント(不適切な養育)のなかで育ち、複雑性PTSDから強迫性障害を発症している方々も少なくありません。

強迫性障害の有病率は3%ほどですが、病気としてはごくごくあたりまえということになります。

また、うつ病との重複率が65%〜70%となっていて、統合失調症や他の精神科疾患や障害との併発率も高い疾患です。
依存症との重複も珍しくありません。
統合失調症の前駆症状としてあらわれたり、重複併発することも珍しくありません。

また、強迫症状が他の病気(統合失調症やCPTSDやうつ病発達障害など)のカモフラージュになっていることがあり、ベースに発達障害や知的障害や境界知能などがあると強迫症状へのとらわれが強化されやすい傾向もあります。

昔は強迫神経症と言っていたり、不安障害に含まれていましたが、今は独立した疾患ととらえるのがスタンダードになっています。

いったん良くなってもちょっとしたことで再燃しやすい病気でもあります。


もうね、日常生活がいちいち大変すぎて疲弊消耗してしまうのです。

症状によっては水道代や電気代、洗剤やプラスチックグローブやティッシュやキッチンペーパー、アルコール消毒、コロコロなど、光熱費や日用品、食事、衣類などに想像を超えるくらい半端なくお金がかかったりします。

お風呂やトイレ、洗い物、掃除、着替え、食事、買物、外出、などに半端なく時間と労力がかかってしまい、日常生活はもとより、あたりまえの社会生活にも大きな支障をきたすことがあります。

大半は人知れずひとりで苦悩する方々が多いのですが、巻き込み型の対人操作性の高いタイプは、他者に安全確認を強制したり、他者に対し脅迫めいた攻撃的な言動をとり、相手を疲弊消耗させてしまいますが、このタイプはかつては強迫性人格障害と言われていました。

なかには思うようにならないと暴言暴力、脅しを使い対人操作をしようというタイプもいます。

強迫性障害は症状に振り回され疲弊消耗し、自分の身辺処理も含めあたりまえのことが何もできなくなってしまう方もいます。

少し落ち着いたとしても、緊張や不安の高まる状況や新しい場面などでは容易に症状の再燃がみられたりもします。

確認行為がやめられず泣きながら繰り返さざるを得ないとか、自分自身が乗っ取られてしまうほどの恐怖をともなう強迫観念などから希死念慮を抱いてしまったり、自傷行為に及んだり、自死にいたってしまうこともあります。

希死念慮にとらわれ、希死念慮そのものが強迫観念となり苦しまなければならなくなる……なんてこともあります。

強迫性障害がどれほど大変で辛いものかわかっていただけたでしょうか。


さて、では治るのかというと………、いまのところは、きれいさっぱり症状がなくなることはありませんが、症状が緩和され日常生活への支障が小さくはなります(これを寛解と言います)。

ものの本やネットには8割が寛解するとか、適切な治療を継続すれば良くなる云々とか書かれていますが、無責任だなぁと思っています。

なかなか治らないことにとらわれ、症状があるから………ということを理由に、できるはずのことをやらなかったり避けたりする方々もあります。

ほっておいて良くなっていくこともありますが、服薬や認知行動療法や最近ではECTやTMSが効果があると言われています。

しかし、実際は薬もそんなに効かないし、認知行動療法もねぇ………、重度の強迫性障害の方にはECTも一時的には効くかもしれません、TMSは残念ながらあまり期待できないですね。

いずれにせよ期待しすぎたり過信しないほうがいいね。

特に曝露療法(エクスポージャー)には慎重になった方がいいですね。
不用意にやると症状が増悪、強化されてしまうことがあります。
曝露療法をやっている方々はそこを乗り越えて……と安易に言いますが、たくさんの方々が再燃、増悪、強化されドロップアウトし、同時に絶望的になってしまいます。

時には入院治療が必要なこともありますが、残念ながら退院して帰ってくると症状が再燃、増悪してしまう方が多いのです。

ホントに残念ですが魔法のような方法はありません。

強迫性障害(精神科疾患全般がそうですが)は慢性疾患という認識をしておくのがよいですね。

慢性疾患として長い目で生活や暮らし方を工夫していく必要があります。

実は強迫性障害の治療にはアディクションアプローチが役に立ちます。

アディクション自体がImpulsive(衝動的)-compalsive(強迫的)な疾患だからです。

変なCBTなんかよりも、12ステッププログラムやハームリダクションや動機付けなんちゃらなどがとても役に立つと思います。

◯マ◯プは……う〜ん、むにゃむにゃですな(^_^;)

基本的には焦らない、欲張らない、諦めないが大切です。

そして、気楽に気長に……で、極端なことはしない!………です。

具体的な症状への対応は、個別に工夫が必要ですが、根気よく手なづける飼いならすつもりがベターです。

強迫性障害の治療はある意味筋トレのような鍛錬を根気よく継続していくようなことになり、小さな大丈夫のを積み上げていく作業になります。

なかなか思うようにうまくいかなかったりしますが、いちいちガッカリしないことも大切です。

気にならなくなるわけではありませんが、気になるけど大丈夫………となれたらハナマルです。

究極は、だからどうした……と開きなおれるといいですね。

あとね、とても大切なことがあって、おかしいことが許される環境や関係、つまり安心しておかしくいられないと良くはなれないんだね。

「私は治さなければならないと思いながら大人になった」( by コンビニ人間村田沙耶香著)ではなかなか良くはなれないんだね。

……とはいえ、なかなか難しいことです。


強迫性障害を患ってしまったのは誰のせいでもありませんが、良くなるかどうかは本人自身の問題で、誰かになんとかしてもらおうということでは死ぬまで良くはなりません。